〜 9話 〜 「 林間学校 3日前 」
「はぁ? 家庭科の宿題が終わってない!?」
白帝学園、1年棟から聞こえてきたのは
「ありえない」 「こいつバカ?」 「あきれた」 の3拍子が
そろっているような 声だった。
声の主は、 久遠 空。 ちなみにその叫び声の
元凶となったのは 雨崎 玖穏。
「うぅ。 僕ら注目の的になってるよぅ・・」
もしも、今玖穏の頭に犬耳がついていたら
飼い主に怒られて しゅんとしつつ許してもらえるのを
上目使いで見ている ゴールデンレトリバーの子犬
の耳 みたいなんだろぅなと 空は心の中で思っている。
「そ・・ 空君?・・ ねぇったら・・・」
そんなことも知らずに 玖穏はその体の大きさに
似合わないほど ビクビクしている。
それがまた、空の子犬想像に拍車をかけていることは言うまでもない
「いや、 何でもない。 それよりも家庭科だろ?
・・。課題は テディベア だろぅ」
顔がにやけそうになるのを 必死にこらえて話す空。
空君はどうやら 子犬がすきみたいですね。
「う・・ん・・ 空君は終わったの?」
「あれくらい 朝飯まえだ。あれをこんな風にできるお前もすごいと思うが」
全員に配られた、 テディベアキットを完成させ
先生に提出するのが、 家庭科の課題。
女子だったなら、さらに作ったテディベアにオリジナルの服を着せなければいけない。
しかし、男子は クマ本体を作るだけで良しとなる。
そして、空の目の前にあるのは・・・・
おそらく・・ クマ? と思うようなテディベアだった。
目の位置がずれていて 柄の悪そうな顔になっている。
基本的に縫い方が雑になっているので
体のいたるところから 綿がはみ出ていて
ハッキリいって・・・ コワイ。
ちなみに 空は、どの女子よりも早く正確に仕上げて
さらに女子限定の服までつけて終わらせている。
女子の作品よりもはるかに可愛く綺麗なテディベアは
売り物にもなるほどのものだった。
「ったく。僕が手伝ってやるから・・ 泣くな。はぁ・・」
空の隣ではおろおろして、挙動不審な玖穏がいる。
「ホント?! うわぁー 命の恩人だぁー 空君ッ」
体の大きな玖穏に抱きつかれた空は、身動きが取れない。
「おわッ ヤメロ 離せよったら ったく」
『ピーンポンパ〜ンポーン。 あぁー 白帝生徒会役員に告ぐ。
本日も会議等々ありますんで、 参加のほどよろしく。
以上。 副会長より』
「・・・。 会議等々だって・・」
「桐野副会長が放送入れた時点で、今日の活動はほぼ遊びだと考えていいだろう」
「じゃぁ クマ吉は・・・」
「あぁ 生徒会室で仕上げてやる。」
(クマ吉って・・ 何だよ あの熊の名前か・・・ ってかクマ吉って・・」
どうやら、 玖穏君のネーミングセンスにつぼがはまったらしい空。
*−*−*
「何やっとんの? 空君」
「クマ吉の手術です」
空の代わりに答えたのは、 玖穏。
「手術って・・・ というか クマ吉ってこのテディの名前なん?」
前編にて散々な目にあった壱葉はものすごい生命力で、復活した。
「そうです! クマ吉です〜」
空をはさんでの、ちょっと抜けてる会話。
すると
「よっし完せ「どぉー しよぉーーー」・・。」
『ガラガラ・・ ビシャン、 ドカッ』
「(((今 扉が閉まるのと同時に ドカッって不吉な音がしたが・・・)))」
「気のせいやな」
と 壱葉。微妙に冷や汗をかいている。
「気のせいですよ」
「そうです。 気のせいですよ」
壱葉に続き、現実逃避を目論んだ2名。
「で 何がどうしよぅなんだ? 干弥」
「うぅ。 家庭科の課題・・・ 忘れていたぁ」
干弥が両手で抱えていたのは、未開封のテディベアキット。
「開けてもいないんやね?」
「・・うん。」
「玖穏、 お前のクマ吉はこれでいいはずだ」
空は、先ほどまで直していたクマ吉を玖穏に投げつけた。
それを玖穏は片手でキャッチ
「「ナイキャ〜」」
ナイキャとは、 ナイス・キャッチの略である
「空君。 上手だねー ひぃくんの分もやってぇ〜」
同い年とは思えない。 と空は心の中で呟くが
空はそれなりに人間観察をする。干弥は一番危険なパターンだと
空の勘が言う。
「はぃはぃ。 貸してくださいな」
何も言わずに引き受ける。
これが自分の被害を最小減になると考えたからである。
「それにしても、 貴乃ときらねは遅いなぁ〜」
自分の剣の手入れをしつつ、壱葉はドアのほうを見た
今、 生徒会室にいるのは
テディベアを作っている、空。 それを見ている 干弥と玖穏
白帝の、男子陣だと言える。
「もっと、目は下のほうが可愛いと思う。」
「いやいや。 ここはもっと上だろ」
「もぅちょい 左じゃないとバランスとれてないって」
3人は、テディベアの眼の位置について討論している。
だんだん 言い争いになってきている。
「だから。 干弥クンにはセンスがないって!」
「何だと? このヘタレめッ。 そのデカイ図体じゃぁ
ヘタレても可愛くないっての!!」
「ムッ。 ヘタレれてなんかないッ!
干弥クンこそ、そのスモールサイズはどうかと思うよ?」
「あぁ? 誰ぁれが スモールだってぇぇぇええええ??!!」
「ッひぃ。 だぁ・・ だから干弥クンが・・」
いつのまにか 干弥Vs玖穏となっている。
やや 干弥が優勢のようだ。
どうやら、空の勘は外れていないようだった。
玖穏は干弥から 逃げるように扉に近づいていく。
「っつ。 クマ吉先生に提出してきまっすッ」
クマ吉を片手でわしづかみにして走り出した。
『 バタンッ ガツンッ バシィィン』
「((ガツンッ・・・ あぁ 聞こえない。 聞こえない))」
「ぁれ? 空君がいない・・・・」
いつのまにか、 生徒会室には 干弥と壱葉だけになっていた。
テーブルの上には、完成したテディベアと1枚の紙切れ。
『 逃げるが勝ち 』
「「・・・・。」」
顔を見合わせた 2人。
そして・・・
「ぎゃぁぁっぁああああああああああああああああ」
聞き覚えのある声。 しかも悲鳴。
「だんだん 近づいてくるような気がするんやけど?」
「気のせいですよぉ・・ と言いたいところなんですけどね・・」
「おやぁ? 皆さんお揃いでぇ? ご・き・げ・ん・い・か・が?」
扉を、音もせず開けて2人を見たのは、
「「 き・・貴乃サン・・・」」
「ふふ。 ちょっとお顔をおかしなさい?」
「「やぁぁあああああああああああああああああ」
*−*−*
「危ない。 危ない。 助かりましたよ 桐野副会長」
1人、難をのがれた空君。
「ふふ。 いいって。 空君だしね」
2人が言い争いをしているところに、窓から紙飛行機が、
そこには、 『逃げるが勝ち』 の一言が。
それを見た瞬間、空は窓から木に飛び移り人知れず屋上へと向かった。
「で 等価交換が基本の副会長は何をお求めで?」
「ぇーとねぇ・・・ 空君が私のためだけに大きなテディベアを作る!」
「はぁ。テディですね。わかりましたよでは 3日後、ここで」
「よろしくねぇ〜」
貴乃に捕まった3人は、こっぴどく小言をくらったことは
言うまでもない。
「・・・。 別に等価交換ってわけじゃなくてもいいの・・・
でも、 私にはそういうにしなきゃ貴方の特別になれないから
ふふ。 寂しいわね、 片思いの乙女心も・・」
きらねの本当の気持ちを知る者はいない。
〜 おまけ 〜
「はぃ。 復唱」
「「「 扉は静かに開けます」」」
正座の刑は2時間に及んだ。
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